Feature Vol. 03 モーション、動きと気持ちの関係性

ゲームにおける「動き」。ゲームをよりわくわくさせるインタラクション。そこにはどんな仕組みが隠されているのでしょうか? たとえば、人の心を動かす法則のようなものが存在するのでしょうか? 動きが人に与えるものとは? 探っていきましょう!

Part 3

心という曖昧な動きの中でも法則はある!?

Preface

Part 1ではgloops「インタラクティブデザイングループ」のメンバー、Part 2では映画監督の佐藤信介監督に人の心を動かす「動き」の表現についてお話をうかがってきました。それぞれが「気持ちいい」を探し、こだわりを作品に込めてきていることがわかりました。今回は視点を変えてロジカルに戦略的に人の心をつかむコンサルティングの世界へ。心という見えない動きをつかむ法則はあるのでしょうか!?

人の心と向き合う、コンサルティングとは?

ここでは、博報堂コンサルティングのシニアマネジャー 西村啓太さんとアソシエイトの青山怜史さんにお話をうかがいました。取材時、一番にうかがったことは「コンサルティングって何ですか?」ということ。なんとなく企業戦略を立てたりするのかなとは思いますが、いったい具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

西村「弊社博報堂コンサルティングは、ブランドをテコとした成長戦略立案を専門とする会社として16年前に設立しました。まずブランドとは何かということをお話したいのですが、ブランドとは“人の頭の中に自社のイメージをつくる”ということです。gloopsと聞いて人が頭の中に浮かべるイメージ、それがブランドです。なので、ブランディングとは人の頭の中に自社の有利なイメージをつくる一連のプロセスと捉えていただければと思います。」

株式会社 博報堂コンサルティング シニアマネージャー 西村 啓太さん

頭の中のイメージをつくる…。簡単なことではないですよね。人は第一印象で決まる! なんていいますが、店舗や企業のイメージというのは最初があって、そして2回、3回とお店やサービスを使うたび、確固たるものになっていくはずです。だからこそ、ブレないイメージ、ブランドが必要になってくるのでしょう。インターネットでさまざまな情報を簡単に得られる時代です。甘いブランディングでは簡単にイメージは覆されてしまうかもしれませんね。

西村「クライアントとのプロジェクトでは、コミュニケーション戦略ではなく、もっと上流の10年後にどういう会社でありたいのか、どのような事業領域で、どのような新規事業を展開しているか、といった検討から始めていきます。」

先を見据えてのブランディング、それこそがプロのコンサルが入る醍醐味といっていいかもしれません! では、その人の頭の中というのは「こういうものだ!」「こういう仕組みだ!」といったルール、共通概念は存在するのでしょうか?

人の記憶に残る、その仕組みとは?

人の記憶の中にイメージをつくる、それは人の心を動かすこととニアリーイコールだと西村さんは話します。ゲーム領域であれば「顧客体験」をしっかりと概念として持つことだというのです。その仕組みとは?

西村「情報が顧客に記憶され、体験として受け入れられるまでに、人の頭の中では3つのステップがあります。まずは情報を選別・記憶する知覚プロセスモデル、次が送り手と受け手間でコミュニケーションを実現する対人関係モデル、最後に情報を受け入れ蓄積していく情報処理システムです。知覚プロセスモデルでは、情報を記憶する準備を行っています。人は情報そのもので咀嚼するのは難しくて、すでに頭の中にある世の中を理解する単位(コンセプトとカテゴリー)に紐付けて咀嚼しているんです。」

つまり、自分の経験や蓄えた知識と新しい情報を組み合わせて、こういうものかという理解を導きだしている訳ですね(知覚プロセスモデル)。

すでに頭の中にある世の中を理解する単位の集合=「経験」は、当然ながら送り手と受け手にそれぞれ異なった蓄積があります。情報を受け取る時、受け手は自分の経験に紐付けて送り手の情報を判断します。つまり、送り手は受け手が持っている経験を推測しないとその情報を受け入れられないというのです(対人関係モデル)。

西村 ゲームもむやみにコンセプトやコンテンツを尖らせるのではなく、プレイヤーがある程度当たり前だと思っている経験の中で、もっと尖らせたらどうだろうかって考えるのがいいと思います。送り手と受け手との経験の枠が重なる部分(図参照)しかコミュニケーションは成立しないと言われているんです。

そして、プレイヤーに理解された情報は記憶へと蓄積されます。しかし、それらの情報は記憶されるものと記憶されないものに分類されていくのだそう(情報処理システム)。ここでも、新しすぎる情報は受け付けてもらえません。Part 1でもTen K.がお話していましたよね! すべてが新しい表現にはプレイヤーがついてこないと。西村さんは「一番好ましいのはプレイヤーの既知の経験を刷新できる情報」だと話します。それがいわゆる「心が動く」瞬間なのだとか! 「あ、このジャンルのゲームってこんな楽しみ方があったんだ!」という発見に繋がるわけです。

出典:「Organizational Behavior」Dennis W. Organ, Thomas S. Batemanを基に博報堂コンサルティング作成
出典:「The process & Effects of Mass Communication」Wilbur S. & Donald R.を基に博報堂コンサルティング作成
出典:「広告革命-IMC旋風」ドン・シュルツを基に博報堂コンサルティング作成

五感に届けるとは? 体験と記憶

情報がどのように記憶に蓄積され、人の心が動くのか。その仕組みについて知ることができましたが、さらにその情報にもポイントがあると西村さんは話します。

西村「一般的にテキストだけの情報はインパクトが弱く、知覚されるためには複層的なインパクトを持つ情報が必要です。音も映像も伴って、できれば1つの情報なんだけれども五感全体を刺激するようなものだと、より知覚しやすくなります。」

ブランド論を踏まえた人の心を動かすゲームのポイント



  • 音声、映像を組み合わせた、頭の中で知覚しやすい情報でなければならない。

  • 一貫性があり(=世界観が統一)、同じ情報である事が すぐに識別できる情報でなければならない。

  • 生活者の頭の中に既にある経験に合致する(=新しすぎない) 情報でなければなければならない。

それが1つめのポイントで、さらに世界観が統一されていることも重要だそうです。確かに、バラついた情報を与えられても心は混乱するばかりですね。そして、最後に飛び過ぎてない(新しすぎない)ということ。プレイヤーを置き去りにしてはゲームもつまらないものになってしまいます。

なるほど、なんだか頭がすっきりしてきましたね! プレイヤーが共感できるゲーム、それがまず心を動かす一歩なのかもしれません。では、気になるのはプレイヤーの頭の中の既知の情報と新しい情報の割合です。どんな割合であれば、共感しつつ、かつ、新しい!とわくわくしてもらえるのでしょうか?

青山「それは成熟度というものにも関係してくると思います。成熟度を計ることも難しいですが、ゲームであってもよく知られるルール、ジャンルであれば成熟度が高いといえます。そういったものであれば新しい情報が多くなければいけませんし、逆にまだゲームのジャンル自体が未成熟の場合、あんまり外れたことをしても、そもそも何のゲームだったっけ? と戸惑いを与えてしまいます。」

株式会社 博報堂コンサルティング アソシエイト 青山 怜史さん

成熟度を計る尺度として「純粋想起」というものがあるのだそう。「ゲーム」といえば? 「モバイルゲーム」といえば? という問いを数人で行うと今のマジョリティが出てくると西村さんは話します。「あー、あれね。わかるわかる。」の共感部分がどこかを割り出す方法ですね! シンプルな方法で、今すぐ試せそう…。その共通の感覚が五感として残っているものであれば、さらに記憶に残るかもしれませんね。

気持ちはどう回る? 訴えかけるべき感情!?

人の記憶に残るためには新しい情報と、また受け手の経験領域に合致するものでなければならないことがわかりました。そうすれば、人の心が動くと。私たちとしては、さらに、心が動くときにわくわく!ドキドキ!と楽しい気持ちになって欲しいものですよね。人の気持ち、感情を動かすことはできるのでしょうか?

西村「そうですね。脳科学の世界の研究では動物、人間に通底する普遍的な7つの感情回路がポイントになると言われています。」

西村「この外円の6つの普遍的な感情が刺激されることによって、自分は生きているというわくわく感が生まれるといわれています。この6つの感情は人間が共通するものなので、ここを刺激するといいかもしれません。」

この中のどれか1つを集中的に刺激し続ければ、わくわくさせることができるということですか?

出典:Dr. Panksepp「Discover Interview: Jaak Panksepp Pinned Down Humanity's 7 Primal Emotions」 を基に博報堂コンサルティング作成

西村「1つというわけではないですね。強度のあるブランドは、相反する2つの概念などを包含されていることが多い。たとえば、FEARとPLAYとかであれば『バイオハザード※』ですね。怖いけど、楽しいという感情。相反する感情を両立できる方が情報のインパクトが増し、人の気持ちに届きやすくなると思います。」

相反する2つの感情を刺激することで、心を揺さぶることができるのですね! そういえばVol. 02のデータマイニングのメンバーも「嬉しいを助長させるのは悔しい」なんだとお話していましたね。記憶と心の仕組み。実はシンプルで、聞けば納得の内容だったのではないでしょうか? けれど、最後に青山さんはこんな風に話しまた。

青山「つくり手が気持ちを込めたものはプレイヤーに伝わっていると思うんですよ。神は細部に宿るといいますが、『これを見てほしい』という部分は伝わっている。その最後の一押しが、心を揺さぶるのではないかなと思います。」

人の心の仕組みを知ることも「動き」を表現する上でとても大切なことです。しかしながら、インタラクティブデザイングループのメンバーのようにインプットをしながら制限の中で最大級の表現を追い求めること、佐藤監督のように自分が感じる「あぁ、これだ!」という感覚を大事にすることも、人の心を動かす「動き」を生み出す大事な行程なのです。Vol. 03、いかがだったでしょうか?
次回もお楽しみに!

この記事の情報は取材時点のものです。

Feature Vol. 03 モーション、動きと気持ちの関係性

ゲームにおける「動き」。ゲームをよりわくわくさせるインタラクション。そこにはどんな仕組みが隠されているのでしょうか? たとえば、人の心を動かす法則のようなものが存在するのでしょうか? 動きが人に与えるものとは? 探っていきましょう!