Feature Vol. 01 世界は変わる!? 仮想現実の本質

「すごい!」。VRを体験する人たちの口からは必ずこの言葉が溢れ出します。いつか夢見た「ゲームの世界に自ら入り込む」体験。ディスプレイを眺めるだけでは味わえなかった没入感が多くの人を魅了し始めています。そんな「VR」の可能性を、常に新しい“面白さ”にアンテナを張りゲーム開発に取り組むgloopsが探ります!

Part 2

面白い!を追求する面白法人カヤックのVR制作現場

Preface

面白いを追求する点でgloopsと考え方が通ずる、面白法人カヤック(以下、カヤック)。「面白い人より面白がる人であれ」のマインドに込められた思いをしっかりと制作に活かすのがカヤックの面々です。最新技術にも貪欲に食らいつき、次々とコンテンツをリリースしています。「VR」はそんなカヤックでも力を入れている技術の一つ。今回はカヤックが誇るVR専門部隊「VR部」を突撃取材!先端を走る開発者は今後の可能性をどこに見ているのでしょうか?「VR部」を率いる原真人さん、泉聡一さんにお話を聞きました。

いつのまにか「VR部」へ。アプリからロボットまで!?

カヤックがVRの専門部隊として「VR部」を設立したのは2015年夏。もともと、原氏がOculus Riftの開発キット(DK1※)を入手し、2013年から個人的にVRコンテンツの制作を行っていたことが発端だといいます。その後、徐々に仕事としてVRコンテンツ制作の依頼が入り始め、他の業務の合間では間に合わなくなってきたことから、原さんを中心にVR部が発足しました。

Oculus DK1

同社が開発したVRコンテンツのひとつに『シドニアの騎士 継衛発進体験装置』(2014年)があります。フルCGで制作されたテレビアニメをモチーフに、作中に登場するロボット・継衛(つぐもり)の搭乗体験ができるというもの。最初はテレビの映像を見ながら原氏が組んだ3DモデルでDK1用のデモを制作。製作委員会に提案し企画が実現しました。実際の制作ではアニメーションの制作会社からCG素材(ロボットなど)と音声が提供され、HMDもより解像度の高いDK2※を採用。"ホンモノ"の素材で作中のシーンを追体験できるものとなりました。

当初はHMDとヘッドフォンを装着し、用意されたコンテンツを視聴するだけだったが、イベント等への展示機会を重ねるうちにアップデートが提案され、より"体験装置"の色合いが濃くなっていった。

面白法人カヤック 技術部・人事部 原 真人さん

「最新版では操縦桿をひねって発進させる操作が加わりました。シートにはLEDが仕込んであり、発進のシーケンスと連動するのが外から見えるのですが、これは待っている人に向けた演出です。やはり、こうしたギミックがあると体験した人の反応が違いましたね。」

これはイベント向けの広告的コンテンツとして「せっかくなので豪華にした」という理由から。「もともと、大きな乗り物やギミックとVRの組み合わせは絶対にウケるだろうと考えていた」とも泉氏はいいます。それが形になったのが『GUZZILLA VR』です。

GUZZILLA VR

GUZZILLA VRは、建設機械用アタッチメントを開発、製造するタグチ工業との共同プロジェクト。タグチ工業が全長7m・総重量15tの巨大ロボット(SUPER GUZZILLA)を制作し、そのコックピットの中で体験するコンテンツをVR部が開発しました。

「本物のコックピットとVRで見ているものを一致させたかったので、当時フォトリアルな表現力に秀でていたUnrealEngineを採用するなど、初挑戦の要素が多かった作品でもありました。操縦桿はシドニアと同じ飛行機ゲーム用のコントローラを横向きにして使っています。」

UnrealEngine
米Epic Games社が開発したゲームエンジン。他エンジンと比べ簡単に高品質の映像をつくることができる。
面白法人カヤック 企画部・人事部 泉 総一さん

「本体にはシートを動かすモーションライドや、人間には聞こえない周波数の音を“鳴らす”ことで振動を伝える振動モジュールも付いています。映像のコースに合わせてイスを傾けると、背もたれに押し付けられて進んでいると錯覚するんです。振動モジュール用にはサブウーファの出力を割り当ててプログラミングしました。ガタガタするような音に振動が加わると本当に揺れているように感じるのです。」

面白法人カヤック。「日本一面白い会社」をモットーに日夜面白いコンテンツを作り続ける制作会社。VR部には面白法人カヤック内でUnityなどのツールを扱える人材が集まっている。

次のVRへ、世界を広げる技術とサービス

原さんは昨年、開発中のOculus社のハンドコントローラ「Touch※」を体験した際に大きな衝撃を受けたというのです。VR空間でいろいろなものに"触れる"感覚は、VRの捉え方が大きく変わる経験だと語ります。

Touchは半開きの状態の手に引っ掛けるように装着するので、手が“何も持っていない”状態でもVR上でポジションが追跡されるし、物を握って持つという動作もVR上と一致することになります。頭の中の変換が消えることが重要なんです。」

Touchに先駆けて、今年4月にはハンドコントローラ(Steam VR コントローラ)付きHMD「HTC Vive」が発売されました。VRのインタラクティブ化の波は予想よりも早く広がるかもしれません。

「今のVRコンテンツは映像主体のつくりが多いですが、ハンドコントローラの感覚を知ってしまったら『やはりインタラクティブあってこそのVR』ということになっていくのでは。映像ももちろん素晴らしいですが、それより一つ上のレベルで世界に触れる体験がないと、満足できないようになるかもしれません。」

HTC Vive
携帯電話、スマートフォンといったモバイルデバイス開発を手がけてきたHTCが開発したHMD。Viveにはワイヤレスコントローラーと部屋全体で360°の動作追跡を可能にするベースステーションがセットになっている。

もう一つ、VR部が今後に向けて注目しているのが「VRソーシャル」。VR空間上で他のユーザーとコミュニケーションする、SNSのVR版です。『AltspaceVR※』『VRChat』といったサービスもすでに提供されていますがVR部が考えているのはコミュニケーションそのものを目的とするものではないといいます。

「一人で部屋の中でVRをしていると、すごく寂しく感じるんですよ。その孤独感を打ちくだくというか、コミュニケーションをするような機能はどのコンテンツにも必須になってくると思います。」

取材当日はgloopsのTakeshi H.もHTC Viveを体験し、カヤックの各種VRコンテンツを楽しんだ。

「特にPlayStation VRが出てからはメインストリームになっていく予感がしています。ただ、単にソーシャル機能があればいいわけではなく、ユーザーの心に刺さる世界や表現を伴ったものであることが必要ですね。」

Oculusに出資するFacebook社も、間もなくこの分野に乗り込んでくると言われています。ユーザーとなり得る層が一気に広がった時、VR部はそれに競合するのではなく「そこで一緒に消費できるコンテンツを提供」することを狙っていると原さんは話します。

VRの面白さとは? 手探りで求める"文法"

同社はこれまでにも、メディアやテクノロジーを駆使した数々の作品で我々を驚かせ楽しませてきました。しかし、VRのコンテンツ制作には従来の映像やゲームなどとは違った難しさがあるというのです。

「VRの仕事に参加しはじめた当初、原に言われたのが今あるコンテンツをたくさん体験したほうがいい、ということでした。ただUnityが使えるからと空間を作ってみても面白いものにはなりません。VRにおいて何が良くて何がイマイチなのか、そこにはある種の文法のようなものがあって、それはまだかなり自由で決定版がないような世界なのです。」

映像・CM・ゲーム・舞台…さまざまなものを参考にしながら、最終的にはそれらを融合した総合芸術的な知識が必要になると考えているそう。洗練されたものづくりのために経験の積み重ねが欠かせないことは、VRでも同じですね!

技術的な面では、デバイスに合わせた最適化が必要になることも難しさの一つ。昨年リリースされたGear VR※向けアプリ『Little Witch Pie Delivery』は、原さんがDK2向けに個人で開発していたコンテンツをコンバートしたものです。短時間のアトラクション的な内容をアプリゲームとして完結させるという文脈的な再構築に加え、動作環境はハイスペックのPCからスマートフォンになります。

「どちらが難しいというわけではなく、映画並みのスペックで表現できるならそこまでつくり込まなくてはならないし、逆に携帯機でもがんばればここまでのクオリティが出せる、という形で詰め込むのも大変です。」

デバイスだけでなく、開発ツールも進化を続けています。UnrealEngineの最新バージョンではVR空間の中でモデルを組み上げる作業ができる機能を実装しました。

「モニター上では良いように見えてもVR空間ではスケール感が狂っていたりして、実際に見てみないとわからないことが多いです。VRコンテンツをつくるためにモニターを使うのではなく、VR空間の中でVRコンテンツをつくれるようになってほしいですね。そこはゲームエンジンの進化に期待しています。」

誰がVRにおける“パックマン”をつくるのか

前回の話にも出たように、VRはエンターテイメントに限らずリモートワークや教育などさまざまな分野に可能性が考えられます。多くは研究・実験段階で準備されているであろうものだが、VR部ではそのポテンシャルをどのように考えているのでしょうか?

「可能性でいうとシミュレーション性の高さにもあると思います。現実をシミュレートした空間で、現実に近いような感覚を持って仮想的な振る舞いができる。本当に現実でシミュレーションしたと思えるレベルで再現できる予感がしているので、そういう需要がけっこうあるのではないかと考えています。」

どんな業界で誰が何を必要なのか? 受託開発の多い同社ならではの視点で、ビジネスにつながる進化の枝を探っていけることもVR部の強さです。

「主に受託開発という形で2〜3カ月程度の短いスパンで数をこなしているので、いろいろと取り組むなかで知見を溜めていこうと。その中で、VRにおけるスタンダードな表現や文法、仕様、機能がどういったものになるか、研究していきたいと思います。」

「ゲームの世界ではパックマンやマリオやドラクエのような革命が起きてきましたけど、今はみんながアレを狙っているんです。VRにおけるパックマンを自分たちがつくろうと。我々もいつかは一石を投じたいと思っています。」

「VR」にまだ正解はありません。VR部もこれからさまざまなコンテンツを手がけることでその正解を見つけ出そうとしています。新しいからこそ課題が見えてくる、新しいからこそこれまでの常識を覆せる。もしかしたらモバイルゲームの新しい正解のヒントも未知なる「VR」の中に潜んでいるかもしれませんね。VRを知ることでモバイルゲームの可能性を見つけられる。VR部で受けた刺激を持ち帰りチャレンジングなモノづくりを続けていきたいと強く決意したgloopsの面々です。VR特集は次回で最終回。最後は噂のVRZONEで実際に最新VRを体験し、更に深くVRを考えてみます。

 世界は変わる!? 仮想現実の本質 Part 3  

この記事の情報は取材時点のものです。

Feature Vol. 01 世界は変わる!? 仮想現実の本質

「すごい!」。VRを体験する人たちの口からは必ずこの言葉が溢れ出します。いつか夢見た「ゲームの世界に自ら入り込む」体験。ディスプレイを眺めるだけでは味わえなかった没入感が多くの人を魅了し始めています。そんな「VR」の可能性を、常に新しい“面白さ”にアンテナを張りゲーム開発に取り組むgloopsが探ります!